「熊野林業」第6号

記事の掲載について

公益財団法人熊野林業が発行する機関誌『熊野林業』について

第6号の記事(青字)をこちらに掲載しています

※記事内容や執筆者肩書につきましては発行時のものとなりますのでご了承ください



『熊野林業』を無料で配布しています

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番号 題名 執筆者
1 向社会的林業のすすめ 林政総合調査研究所 理事長 小澤 普照
2 発想の転換を ー山で生きるために ハイトカルチャ株式会社 会長 赤井 龍男
3 森のめぐみの連鎖を辿って 京都大学大学院農学研究科 助教授 芝 正巳
4 観る 大阪府指導林家 大橋 慶三郎
5 霧深い杉山に囲まれて 日本林業経営者協会 婦人部 林 悦子
6 森林と林業(人との関わり) 財団法人熊野林業 会長 浦木 清十郎
7 緑のダムに学ぶ 財団事務局 泉 諸人
8 「第七回林業研修会」 財団事務局
9 森林自然公園の紹介 財団事務局
10 非皆伐施業参考林分 財団事務局
11 作業道作設の参考資料 財団事務局

6 森林と林業(人との関わり) 財団法人熊野林業 会長 浦木 清十郎

 人類と森林の関わりは人類として進化し始めた時からである事は申す迄もない事であります。人間は進化して火を用いる事を覚えたのは数十万年前と云われて居るが、人間はこの火を色々な事に利用しその大きな効果はどんどん進展して行った。暖を取る事や食物に火を用いた事は云われて居るが、精練のことや、森林を農地化や放牧地化するために焼いたり取り除いて行った事も云われて居る。
 
 森林や林産物は、人類にとって最大の恵みであり何十万年もの間、人間の資源として利用してきたにも拘わらず、一方では、森林を必要以上に消費し破壊していったのが人類の歴史ではなかろうか。火は、森林破壊の元凶にもなって居る。

 人類の文明時代(一万年位前から)に入って森林の破壊と減少は急速に広がったが、この一、二世紀には更に激しく急角度で森林の破壊と減少が行われて居る。

 近年になってこの事に気づいた文明国では、大きなテーマとして環境問題を重要な課題として取り上げてきた。森林の破壊が世界的なテーマとして論議される様になった事は宜べなる事であるが、果たして破壊の力と速度をどれだけ食い止められるだろうか。

 我が国は世界で最も、国土の中に森林が多く残された国の一つである。しかし、我が国も森林は質的に低下の傾向にあり(人工林が増え、天然林が減少して居る)、自然環境維持は低下して居る。

 私共の林業は元々、森林を維持し乍ら、林産物を得る天然林型林業が本来の姿であったが、明治から西洋文明が入り、昭和になり規格商品大量生産の時代となった。その頃から林業は、樹種を絞り皆伐一斉造林の方向となった。特に戦争末期の森林強制伐採から戦後の高度成長時代には、南では杉桧を北では落葉松等を中心とした、画一的単純皆伐造林生産方式に移行して行った。この方法は目先に利益を得るには効果的と考えられて居るが、それは一時的に財貨を得るには手っ取り早くても、長いスパンでのトータル収支における最多ではないのである。即ち、伐木造材運搬経費は安価で効率的であるが、その後の造林撫育経費が高く、且つ次の収穫へ長い年月が必要となる。一方、天然林型施業の方が高度の技術と経験が必要であるが、収穫が継続的に得られ(時に毎年)、育林、植林経費は安くなり、トータルとしての収穫収支は天然林型施業の方が遥かに勝るのである。そして、森林は保続されると同時に、環境、国土保全等に大きく寄与されているのである。

 又林業や林産物と云うのは、木材を生産する事だけではない。確かに森林から得られる生産物の中では木材が一番大きく、それが大部分であり遂には木材生産のみが林業であり、林産物であるというイメージが強い。更に建築用材とするために通直な大径木を目指し、樹種は杉桧松等に絞られて行く傾向にあった。しかし、本来林業や林産物は多種多様である。例えば小径木の海布丸太や磨き丸太、もっと小さい材や各種木工品を作る流木や木の枝、又木材以外の茸や各種林内草本、薬草や山菜(ワラビ、シイタケ、クズやカタクリ)が混在している。一方、蜂蜜や他の動物等(野性獣や鳥、昆虫や小動物等) 林産物の種類は豊富で、森林から生産される様々な物は全て林産物であり、それらの生産物は全て林業に含まれるものと考えるべきである。

 ところで、農業と林業の基本的な違いは、農業は土地が生産母体であるが、林業は土地プラス森林が生産母体である。尤も、皆伐一斉造林は農業と同じく土地のみが生産母体である。これは林業の本来のあるべき姿としては望ましい形態ではないのである。飽くまで森林そのものが生産母体であり、その森林から母体を損ねる事なく、森林全体の年間成長量の範囲の中で果実を収穫する事、即ち森林を損ねる事なくその果実である林産物を年々収穫をする事が本来の姿なのである。そして、その収穫される果実は木材を始め、各種の林産物であるが、これ等は、森林という母体を維持し乍ら収穫されるのである。それが望ましい林業であり、長い期間に亘りトータルとしての収支が最大になるのである。森林は農業に比べより自然であるので、技術と経験に於いては高度なものが必要であるが、人為的な労働は遥かに少ないのである。しかし、農産物の多くは何万年前か何千年か、又近年に 於いて、自然の中の原種とは程遠く、大部分が人々の好みに人為的に品種改良されてしまった。この事により一般の農産物は、施設や消毒、草取りや風雨の保護等に絶えず手をかけて居ないと育たなくなり、人間の健康、栄養の面でも次第に低下したものに成っている。

 天然林型施業では、場所や地形、自然の生態、自然条件の調査や考察が必要であるが、辛抱して忍耐強くこの貴重な森林と云う大自然を大切にしながら、林業経営を行い森林を損なう事なくその産物を貴重な果実として戴くべきものと存じます。

 林業は農業的な手法や改良にひかれて行っては成らない。本来の林業、天然林型林業に戻るべきであり、これが結局の所人類にも長い目で見れば大きなプラスになるのである。

 

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