「熊野林業」第13号

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公益財団法人熊野林業が発行する機関誌『熊野林業』について

第13号の記事(青字)をこちらに掲載しています

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番号 題名 執筆者
1 熊野のサナエトンボ 熊野自然保護連絡協議会 会長 南 敏行
2 田長谷の植物・2 熊野自然保護連絡協議会 副会長 瀧野 秀二
3 蝶の世界-熊野の普通種・特筆種- 環境省 自然公園指導員 山口 和洋
4 人工林の施業-美しい森を目指してー 公益財団法人熊野林業 専務理事 泉 諸人
5 子供たちと植樹事業 財団事務局
6 非皆伐施業参考林分 財団事務局
7 赤木白倉試験地林分調査報告 和歌山県林業試験場
8 赤木白倉試験地土壌調査報告 森林総合研究所立地環境研究領域

2 田長谷の植物・2 熊野自然保護連絡協議会 副会長 瀧野 秀二

 熊野林業第11号では、田長谷で見られるツツジ科・ツツジ属の植物を紹介してきました。今号ではアジサイ科の植物について、紹介したいと思います。アジサイは日本人にとって最もなじみ深い植物の1つです。以前はアジサイはユキノシタ科アジサイ属の植物と分類されてきました。しかし、1980年代になってクロンキストの分類体系が採用されるようになり、草本の属のものをユキノシタ科、木本の属をアジサイ科の2つの科に分けてあつかうようになりました。

 アジサイ科のアジサイ属、イワガラミ属、バイカアマチャ属の植物は、花序のまわりにがく片が花弁状に変化した装飾花をつけるのが特徴です。園芸植物としてのアジサイは赤や青色の装飾花をつけ、色鮮やかです。しかし、野生のアジサイ属の装飾花はヤマアジサイを除いてすべて白色で、決して派手ではありません。

 田長谷に自生しているアジサイ属、イワガラミ属、バイカアマチャ属の植物9種について紹介したいと思います

 ヤマアジサイ

 北海道から九州までの山間の谷間や林床に広く分布し、朝鮮半島南部にも自生しています。高さ1~2mの落葉低木です。葉は楕円形または卵形で長さ10~15cm、幅5~10cm、先は長く尖ります。6月初旬、枝先に直径5~10cmの花序をつけ、両性花のまわりを装飾花がとりかこみます。装飾花は直径1.5~3cm、がく片は3~4個、楕円形から円形、色は淡青色でときに淡い紅色をおびることがあります。両性花も装飾花と同じように色の変化に富んでいます。うっとうしい梅雨の時期の山道をぱっと明るく見せてくれる野趣豊かな花です。変種のアマチャは本州中部に分布し、甘茶の成分フィロズルチン配糖体の含量が多いとされます。しかし、実際の甘茶にはアマチャの葉だけでなくヤマアジサイの葉も含まれているそうです。田長谷では以前は林道沿いの杉林の林床や谷沿いで一面に見られたヤマアジサイがここ数年少なくなったように思えます。シカの食害にあっているのかもしれません。



 

ガクウツギ

 山地の沢沿いの斜面や林縁に生える落葉低木で、高さは1~1.5mになります。関東地方以西の本州と四国、九州に分布する日本固有種ですが、伊豆半島と中国地方ではまだ見つかっていません。葉の表面は濃緑色で独特の青みをおびた光沢があることから、コンテリギとも呼ばれています。5月初め、枝先に直径8~10cmの花序をつけます。装飾花は直径2~3cm、白色のがく片は3個で大きさはふぞろいです。両性花は大きさが5mmほどで色は黄色です。田長谷では鼻白の滝前後の林道沿いで多く見られます。
 


コガクウツギ

 明るい丘陵や低山の林縁に比較的普通に見られる小低木で高さは1~1.5mになります。ガクウツギに似ていますが、葉がやや小さいこと、葉縁の鋸歯が大きいこと、若枝が紅紫色を帯びることなどで見分けられます。花はガクウツギより少し遅れて5月中旬頃、枝先に直径4~8cmの花序をつけます。1つの花序につく装飾花の数は少なく1~3個で、両性花だけの花序もあります。装飾花は直径1.5~2.5cm、がく片は3個、白色で大きさはふぞろいです。両性花は大きさが8mmほどで色は黄色です。田長谷では林道沿いのやや乾いた斜面で多く見られます

 コガクウツギの長く伸びた枝からは良質で白色の髄がとれ、古くは灯心に用いられ、トウシンギなどの方言名でも呼ばれています。



コアジサイ

 関東地方以西の本州と四国、九州の山地の林縁や、明るい林中に見られます。高さが1~1.5mの落葉小低木で、他のアジサイの仲間と違って装飾花がないのが特徴です。葉は草質で明るい淡緑色、縁には規則的な粗い鋸歯があります。6月初旬、枝先に直径5cmほどの花序をつけます。花はすべて両性花で直径葯4mm、花弁は5枚で白色から淡青色、雌しべは2~4本、雄しべは10本で花弁より長く、青色を帯びるので花全体がきれいな淡い青色に見えます。幹の下部で分岐し、多くの枝を出すところから、シバアジサイの別名があります。



ノリウツギ

 北海道から九州まで広く分布する落葉低木~小高木で、高さは2~5mになります。本州中部以北では日当たりの良い森林の伐採跡地や溶岩台地などに、いち早く進出するパイオニア植物の一つとされています。葉は対生または3輪生し、長さ5~15cm、幅3~8cmで先はやや尖ります。7~8月、枝先に長さ8~30cmの円錐状の花序をつけます。装飾花は白色で、がく片は3~5個、長さ1~2cmの円形~長楕円形をしています。両性花も白色なのでよく目立ちます。田長谷では林道沿いや川沿いの明るい場所で多く見られます。

 材は白色で堅く、楊枝やステッキ、傘の柄、かんじきの爪などに加工されてきました。また、根材からはサビタパイプとよばれるパイプがつくられたそうです。枝を水に浸して内皮からぬめりのある粘液をとり、和紙をすくときの糊料に用いたのでこの名がついたとい言われています。

 

ヤハズアジサイ

 紀伊半島、四国、九州の深山にやや希に見られる落葉低木で、高さは1~3mほどになります。葉は長さ12~25cm、幅7~20cmの広楕円形で大きく、先のほうで3~7個の浅い裂片に分かれます。この葉の先端の切れ込み方を矢筈に見立てて和名がつけられました。7月末、枝先に直径20~25cmの花序をつけます。装飾花は緑白色でがく片は4個、長さは1cmほどで少なく、花序のまわりにまばらにつきます。両性花は白色で多数つきます。田長谷でも標高900mに近いスギ林でわずかに見られるだけです。

 植物地理学上、九州(襲)、四国(速)、紀伊半島(紀)に共通して分布する植物を襲速紀(そはやき)要素といいますが、ヤハズアジサイはその襲速紀要素の植物の代表といえます。


 ツルアジサイ

 北海道から九州、朝鮮半島南部に分布するつる性の落葉木本で、幹や枝から気根を出して樹木や岩をはい上がり、高さは10~20mに達します。幹は淡褐色で、樹皮は縦にうすくはがれます。葉の大きさや形には変化があり、樹幹をはい上がる枝の葉は一般に大きく、卵形で長さ5~12cmになり、林内をはう枝の葉は円形で、長さが数cmと小さくなります。6月中旬、枝先に直径10~20cmの花序をつけます。両性花のまわりを3~7個の白装飾花がとり囲みます。装飾花は白色でがく片は3~4個です。両性花は黄白色で、雌しべは2本ですが、雄しべの数が15~20本と他のアジサイ属と比べて多いのが特徴です


 イワガラミ
(イワガラミ属)

 北海道、本州、四国、九州と朝鮮半島に分布するつる性の落葉木本で、ツルアジサイと同じように、幹や枝から気根を出して樹木や岩をはい上がり、高さは7~10mに達します。山地の林縁や岩場などやや明るい場所を好んで生えています。6月初旬、その年に伸びた新しい枝の先に大きくてやや平たい花序をだします。花序の直径は10~20cm、両性花のまわりに10数個の装飾花がつきます。装飾花は1個のがく片で長さ3cm、幅2cmの広卵形で大きく白色でよく目立ちます。ツルアジサイとは花の時期以外で区別するのは困難です。しかし、花が咲くとイワガラミの装飾花のがく片が1個であることで、容易に見分けることができます。また、ツルアジサイの葉の鋸歯は細かくて、片側だけで30個以上あるのに対して、イワガラミの鋸歯は粗くて、片側だけで20個以下であることも、区別点の1つです。さらに、アジサイ属の雌しべが2~4本であるのに対して、イワガラミ属では1本であるのが最大の相違点です。


 バイカアマチャ
(バイカアマチャ属)

 東海地方、紀伊半島、四国、九州に分布する落葉低木で、高さは1mほどになります。葉がアマチャに似ていることや、甘茶の代用品として用いられたことと、花がウメの花を思わせることからこの名があるとされます。7月末、枝先に白色の装飾花と両性花をまばらにつけます。装飾花のがく片は合着して皿状で、網状の脈が目立ちます。両性花の花弁は4枚で白色で厚く、雄しべは多数で葯は黄色、雌しべは2本で雄しべより長くなります。また、装飾花のがく片は秋、葉が落ちたあとでも残るのがこの木の特徴で、葉の無くなった冬場でもこの木を見分けることができます。

4.人工林の施業 -美しい森を目指してー 公益財団法人熊野林業 専務理事 泉 諸人

 政府の間伐に関係する基本方針をみると、「国産材の安定供給体制を構築するとともに、地球温暖化防止等の多面的機能を発揮するための間伐等の森林施業や路網の整備を推進する」としている。

 このことは、間伐によって木材生産を高めると同時に良好な森林環境を維持できるという意味に受け取れる。国の政策でいえば、終戦後の拡大期では「木材生産」を主眼においていたが、ここ数年前からは温暖化防止意識などの高まりによって「環境」を重要視する政策へと変わってきた。

 内閣府による森林・林業に関する国民の世論調査によれば「木材生産」は最下位で、公益的機能(水源かん養、土砂流出防備など)が最上位になっている。

 木材生産と公益的機能は別々に考えるのではなく、双方は両立するものであるし、共生するものと思う。木材生産と良好な森林環境を共生する為に施業(手入れ)が必要であるし、中でも間伐が一番大切になってくる。

 間伐が全く行われていない森林では、林内は暗く、下草が全くない状態である(放置林)。そうなれば、たび重なる降雨によって林地があらわれて、養分を同時に流されるのと、光が十分に入ってこない度に立木の生育がきわめて悪いので、ヒョロヒョロした木になっている(線光林といわれている)。地表が大水で浸食されて、木の根が地表面上に現われてたり、一部小さな土砂の崩れもみられる(写真参照)。このままにしておくと、近い将来大きな災害(土砂崩壊)につながりかねない。やはり森林は適度な間伐をくり返して、林内に光を入れて下草の植物が繁茂する状態にして、林地を安定してゆかなければならない。

 そうすることによって、土砂流出も防げるし、水源かん養も保たれるのと同時に地球温暖化防止にも貢献できる。

 間伐には、切った木を林内に置いたままにしておく方法(保育間伐)と切った木を搬出して売る方法(利用間伐)がある。大切に育てた木なので、できれば搬出して売りたいところですが、昨今の材価の低迷によって、実際には売るところまでゆけていないのが現実となっている。日本の人工林の齢級構成をみると、圧倒的に30年生~60年生の木が多くをしめている。これらの間伐による収入を見込めれば本当によいのですが…。

 次に間伐による収入を上げる為に、ぜひとも必要な作業道について書かせていただく。森林には、林道と共に作業道という道が必要となってくる。作業道は道巾が2.0~3.0m程で、おおむね基幹林道から開設する。小型のユンボやブルドーザーなどの重機を使って入れてゆくことになるが、ポイントは水の処理をうまくすることである。なぜなら雨が降れば、水は道の上を流れてゆくことになるので、路面が少しずつ浸食されて、溝ができたり、デコボコの道になって通行しにくくなることもあるし、また法面を大きくカット(2.0m以上)すると、そこから土砂崩壊を引きおこして、崩れてくることもある。せっかく作った道が使えなくなると意味がなくなる。この様なことがないように、
①上部のカット高はできるだけ低くする。
②上部も下部もできる限り木を残す、特に下部はガードレールの割役をはたすので注意して残す。
③特に下部側で必要なところは木をくんで、安定させる。
④路面は少し下部側を低くして、水がすぐに下部側に流れてゆく様に傾ける。
⑤できるだけ尾根筋に開設するが、やむをえず谷に近いところに作るときは水の処理を特に注意する(写真参照)。
他にもあるが、以上の様なことに配慮しながら、作業することになるが、作業道は木の伐採搬出がメインとはなるが、山の手入れ管理の為の道でもあるので、長い将来にわたって、こわれないような道づくりをしなければならない。実際間伐した木は搬出販売している訳だが、道は作ればよいということではなく、搬出しやすい道ということを頭において作ってゆくことが肝要である。もう一つ大切な点は、森林の自然環境をできるだけこわさないような道づくりを心がけなければならない。先の道巾が小さいことや、切り取りが低いことなどは、この点に配慮した方法でもある。

 さて、間伐と作業道の話から、今度は美しい人工林はどう作ってゆけばよいかという問題となってくる。

 ドイツの林学者のアルフレート・メーラーの言葉に「もっとも美しい森はまたもっとも収穫の多き森である」とある。つまり美しい森は環境的に優れているということである。だから美しく感じる森では、環境と生産(経済)は両立するものである。

 伐採は間伐(ぬき伐)を繰り返し実行してゆき、常に森林の自然環境を維持する状態にしておく。こうすると、おのずと景観として美しいだけでなく、森林の生産力も最大に高まってゆくことになる。つまり、美しい森づくりをすれば、収益も上がり、林業経営も安泰となってゆくので、「環境か経済か」という二項対立はなくなってくる。但し、昨今の材価があまりにも低いことは頭痛いところではあります。

 例えば、高層木(スギ、ヒノキなど)が太くて、直すぐな樹幹を伸ばしていて、その下に中低木層が広がり、林床にも光がさしこんで下草が茂っているという景観は誰もが美しい森と感じるだろう。そこには動植物が数多く生息していて、環境的に優れていると同時に、高く売れる優良木が多く育っている(写真参照)。中には高層のスギ林の下一面にアジサイの群生がみられることもある。また谷筋には同じく高いスギ林の中に、白い花をたくさんつけた、ヤマボウシが点在している。

 ここは、新宮市熊野川町赤木の田長谷山林及び同地区の白倉山林の景観ですが、いずれも100年以上の長きにわたって、作られた美しい森林ということができる。とりわけ白倉山林(当財団所有林)は、上層のスギは200年以上の立木で、土壌環境がスギの生育に大変良いのか、まっすぐで枝下高が高く、節が少ない高木が林立している。最も高いスギでmもある(胸高直径は138cm)。中層には、ユズリハなどの広葉樹やスギなどの針葉樹が成立し、低層木が数多くあり、下草は一面隙間なく繁荗している。ちなみに、森林総合研究所の土壌調査結果によると、スギの生育はもちろん、多種の生物の生育によい環境とのことである。このような森林環境の中では、先に示した公益的機能(水源かん養、土砂流出設備、温暖化防止、生物多様性の維持)は、十分発揮できると共に、林業経営上の最重要点である良質材の生産が可能となる。木材生産と自然との共生こそが、これからの林業には、絶対的に必要なことであり、それは可能なことである。

 当財団法人の白倉山林の美しい人工林をぜひともご一覧下さい。

 

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